金曜1限 言語とジェンダー(藤村先生) 2007/01/19
DICOM M1 秋田 栄里
Sachiko Ide(井出祥子)
Women’s language as a group identity marker in Japanese
1.Introduction
一般的に、日本語の女性語はより丁寧であると言われている。(例)敬語、終助詞
一般論に反論する最近の研究
@Ide, Hori, Kawasaki, Ikuta& Haga(1996)
女性の丁寧な言葉遣いは、社会的地位よりも役割の違いによる。
主婦:social-oriented
activities
男性:efficiency-oriented
activities
社会的相互作用の方が、職場的相互作用よりも丁寧な言葉を使う傾向にあるため、女性語が丁寧である。
AIde(1991)
丁寧な話し方がふるまいを示す。「よいマナー」となる。(Goffman 1967, 威信のある地位とつながっている特性)
・ より丁寧な言語形式。
・ 人称代名詞のよりフォーマルな使用。
・ (相手を)軽視するような人称代名詞を避けること。
・ 品のない表現を避けること。
・ 美化敬語(beautification honorifucs)を使用すること。
BIde& Inoue(1992)
一般に、職場では女性は力がなく、地位が低いから丁寧な言葉を使うとされているが、調べた結果、高い地位にいる女性の方が、低い地位の女性よりも丁寧な言葉を使うことがわかった。地位を保ちながらも振る舞いを表現するために、丁寧語を道具として、武器として使うことさえあった。
2.The indigenous way of looking at women’s language
日本語の女性語研究:Kikuzawa
Toshio(1929 )婦人の言葉の特徴について
・男性の言葉との対比ではなく、「位相」として扱っている。位相とは、地域・職業・男女・年齢・階級・書き/話し言葉の相違から起こる言葉の違いのことである。国語学でよく使われる分析方法。
・ 士農工商→どのグループに属するかで異なる言葉を使用していた。
3.Women’s language in women’s world
女性の世界における女性語:女房詞と遊女語→現代の女性はこれらの言葉は使っていない。
8世紀:万葉集、二人称の代名詞で男女の区別。
11世紀:女性がひらがなを作る。男性は漢語を使用。(例)源氏物語
女房詞・遊女語が文書化されたのはそれぞれ14世紀、17世紀のことである。
3.1女房詞
もともと身分の高い女性が女房になる。皇室のために働く。階級も存在する。
女房の仕事:皇室の事務、皇子の教育、重要な情報を知らせること、など。
天皇と貴族の橋渡し的存在だが、役割はとても重要。
女房は8世紀から存在するが、女房詞が現れたのは14世紀から。時代は室町で、貴族の没落、侍の勃興が始まったあたり。
女房詞は、(a)天皇家、貴族の苦しさをかくすため、(b)貴族の貧困を見せるような発話を避けるため、に用いられ始めた。
女房詞は、集団内では使われたが、集団外には理解されないような暗号として機能した。
語彙的側面を変え、音韻や統語は変えないような語を作った。日常語彙に多い。
女房詞の種類は以下の通りである。
@最初の音節のみを使用する。(う>うなぎ)
A最後の音節をなくし、最初の音節を繰り返す。(かつかつ>かつお)
B漢字の読み方を変える。(およね>こめ)
C名詞と動詞を敬語化する。(おみあし>足、召し上がる>食べる)
D代わりの形容詞を作る。(おいしい>むまきこと)
これらの機能は、単語の明確な意味を隠すことだった。そのため、外部の人には理解できないように作られた。
なぜこれらの語を作ることが必要だったのか?
@経済的貧困を周りに悟られないため。(B主食の米がない、とは言えないので読み方を変えた。)
A実際は権力を掌握しているが、外には高貴な育ちを強調するため。(子どもが使うようなAの言い方をした。)
女房詞はしばらくすると武士の妻、民衆へと広まっていった。17世紀江戸時代の女性のエチケット本には、女房詞の表現がモデルとして挙げられている。
現代の日本語では、女房詞の異形は男性にも使われる。女房詞を源とする語彙は、日本語の話者にとってより優しく、丁寧であるように思われる。(おみおつけ>味噌汁、おめもじ>会う)
3.2遊女語
17世紀から19世紀(江戸時代で安定している頃)にかけて、遊女語が生まれた。
国は徳川将軍家に支配され、鎖国の最中であり、庶民は大衆文化を開花させた。士農工商の身分制。
遊女は、俳句や漢語の知識、音楽、舞踊に長けていることが期待され、一種の尊敬される職業と見なされていた。
京(京都)、難波(大阪)、江戸(東京)で、異なる地方、社会的背景、方言をもつ人々とも交流できるようにと共通語として作られた。遊女語のアクセントは、遊女の出身を隠すのにも役だった。
遊女の独特の話し方は、現実世界を忘れさせるような、道楽や余興の雰囲気を作り出した。
言語学的特徴は以下の通り。
@助動詞が動詞につくこと。この変化は余興業界を反映している。この相互作用的な行動は、意味を変えずに話者―聞き手の雰囲気によって表現を変えられるという利点があったので、最もよく使われた。(お読みなさる>お読みになる)
A1人称、2人称の呼び方がつくられたこと。(わちき>わっち、そもじ>ぬし)
遊女語はそこを行き来する男、女には少なくとも理解はされた。
遊女は教養レベルが高かったので、民衆の注意を引き、賞賛の的であったため、歌舞伎に使われたり、民衆もまねたりするようになった。最初は民衆の女性に広まり、遊女語としてのステータスはなくなり、そのうち男性にも使われるようになった。現代では男性、女性ともに使う言葉である。
4.The impact on present-day women’s language
最初の女性語は8世紀に万葉集で出現。このときから徐々に男性、女性は違う言語を話し始めていたと考えられるが、大きな影響はない。
4.1Establishing women’s language as a group language
女房詞と遊女語はともにグループの同一性を示す言語として機能していた。
女性語の世界では、よく語彙は変化していた。同じ言葉を民衆が使うと、新鮮さが減ると信じられていたから。(なす>なすび:昔は主に女性が使っていたが、今では男性も使っている。→新たな語が必要。「おなす」が作られる。この「お」はなすに対する尊敬ではなく、美化語として話者の振る舞いを示す表現として加えられた。)
女房詞や遊女語は、語源的には現代の女性語の直接の先祖ではないが、性による使用(の違い)が初めて記録されたものである。
4.2Indexing group identity and molding the speaker’s self
女性語は職業的集団の同一性をはかるマーカーとして機能していた。
女性語を使うことによって、(a)集団の協調性を作り、(b)自分はこれらの集団に属していると見なし、(c)集団にあう人々を仲間として形づくっていた。
4.3Adding valuable image
女性語の普及は、人々がどのくらい肯定的に捉えていたかという指標になると解釈してもよい。
たとえば、「食べる」という語彙の変化を見る。これらは現代日本語でも使われている。
@食う
A食べる
Bお食べになる(敬語表現)
C召し上がる(女房詞の敬語)
D食べなさる(遊女語の敬語)
CやDはより教養があり、優美な語であるということを含んでいる。
5.Conclusion
日本の文化のコミュニケーションを、異なる時期・集団を対象に、国語学の手法を用いて分析したこの研究は、他の文化の研究にも新たな可能性があることを示している。
ありふれた仮定を吟味しないで学問に取り入れないほうがよい。女性語は低い地位、力のなさと関係していると導かれかねない。この研究では、女性語の機能を指摘し、これまで見なされてこなかったよい面が現れているので、新しい分析方法が正当化されている。
これらの歴史を見る価値は、今の女性語を昔の言語になぞらえようとしていないところにある。それら言葉に何が起こったかという分析や方法が、日本人女性は多くの集団言語に属しているということを示している。実際、多くの人が複数の集団に属しているといえる。
多くの集団が職業語を有していて、その使用が仲間のしるしであるという考え方は、新しくはない。
日本語においては、男性が使えず、女性のみが使えるという単語はない。
多くの日本語女性語研究では、男性と対照したときに、女性は力がないから、女性語は従属に起源があるとしているが、この新しいアプローチは女性語の肯定的な面を歴史から発見している。女性語の機能をみることによって、女性語は女性自身のセンスや、集団全体を強める重要な役割があることがわかる。
国語学は、より一般的な最近の言語トピックの分析を導いてきた。この概念は日本語だけでなく他の言語にも有用であるだろう。
Janet S. Shibamoto Smith
Gendered structures in Japanese
1.Introduction
日本語話者は世界で13億1000万人存在する。話者はブラジルに500万人、アメリカ合衆国にも少しいるが、大半は日本で話されている。
日本語はアルタイ語族といわれてもいるが、厳密には起源がわからない孤立した言語である。
日本語の特徴
・ 類型:膠着語のSOV型。
・ 統語:名詞句のあとに後置詞が来る(エミコが公園で)。
所有者は所有されたものを修飾し(アリソンの本)、関係詞は前から修飾する(よく笑う友達)。その形態素は主に接尾辞がつけられる。
主題構造を持つ。主題を表すマーカーとして、「が」「は」があり、役割は以下のとおり。
「が」:行為者/動作主をあらわす。(花子が博之の犬を蹴った。)
「は」:主語を定義する。(花子は博之の犬を蹴った。/ 博之の犬は花子が蹴った。)
照応表示は文脈で表される。(敬語や文末の助詞など)
類別辞を持つ言語。心理言語学的な特性により分類される。
・ 音韻:5母音(/a e i o u/)、16子音(/p t k b d g s z h r m n w j/)。
トーン言語という人もいれば、ピッチアクセント体系だという人もいる。
・ 語彙:「和語」「漢語」「外来語」。→同じ対象や現象をあらわすのにたくさん言い方がある。
・ 書き方:「漢字」「ひらがな」「カタカナ」→正書法は潜在的に柔軟。
・ 方言:たくさん存在するが、共通語でコミュニケーションがとれる。
・ 女性語:文法的な性は存在しないが、金田一(1957)は女性語の弁別は存在すると主張。
Inoue(1996)によると、「女性によって使われる言語は女性特有のふるまい、きまりなどと結びついている」。
Shibatani(1990)は音韻の違い、語彙や統語の違いもあると主張。
さらに、女性は漢語の使用は少なく、下品な言葉を避け丁寧である、とも主張した。
2.Gendered structures
Weatherall(1998):男性と女性の言語の差異は「分極化しており、基本的で、典型的」である。
Kitto(1989):日本語も男性・女性を二分化して考える社会。”gender reference”
2.1女性について話す:語彙的なバイアス
語彙のジェンダーは日本語にも存在する。
「人間」「人」など、ゼロ照応や性区別のない言葉も。しかし、「人間」「人」は女性を抹消しているともいえる。
Endo(1991):辞書の定義をする。
|
男 |
女 |
連想 |
強い、立派な、名誉、面目 |
きれいな、優しい |
|
男の子 |
女の子 |
使用状況 |
純粋に子供にだけ使う。 |
大人の女性にも使う。 ↓ 女性の地位を損なわせ、社会的に低い地位にとどめる語として使用された。 |
同じ語の非対称性
今日では減りつつあるが、辞書にはいまだに残っている。
Nurita(1993):女性を指す語の比較
婦人:形式的な意味を持ち、性別に重きを置かない。
女 :女性的な性の側面を強調。
女性:インド・ヨーロッパ語のジェンダーの語から派生した。スマートであるという含意をもつ。
Endo(1991):男性・女性という名詞
単独で用いられる分には対照性がある。複合語になると対照性がなくなる。(記者→女性記者、職員→女性職員)
なぜ「女性問題」という語があって、「男性問題」という語はないのか?
言葉と女を考える会(1985):女性に関する言葉のカテゴリーを明らかにする。
早熟:女性→娘、少女、処女 / 男性→息子、少年、童貞(男女の表し方が対応している)
結婚前:女性・男性→シングル / 男性→独身 / 女性→売れ残り(女性の言い方が悪いイメージ)
性的対象として見られる未婚女性:情婦、愛人、妾、売春婦(女性を指す時のみに存在する)
既婚:女性→主婦、妻 / 男性→主人、夫(男女の表し方が対応している)
ほかに、女房:宮中の女性を指す言葉だった
家内:自分の妻を指すときに使う
奥さん:他人の妻を指すときに使う
ワイフ:「家内」というイメージはよくないので、それを払拭するために使う
・ ただし、「母性愛」のように、女性の方がよいイメージを持つような語もある。
・ 歴史上、いくつか言い方の区別がある語は、伝統的な労働体系や、「家」体系に由来しており、女性の評価を下げるための語とされている。
・ 女性に関する語は、女性の位置や語の分析を反映しており、辞書の定義がどのように女性を位置づけているかを見ることもできる。
2.2女性の話し方
金田一(1957)のいう「真の女性語」がベースとなっている構造的な特徴を挙げる。
2.2.1音韻
女性語は、男性より高いピッチで話される。(生物学上の説明よりも高いピッチ。)
Shibamoto(1985):以下の3つの特徴を発見。
@/i/の削除(いや→や) A/r/の同化(わからない→わかんない)
Ba)母音の長音化(よく聞くのよ→よーく聞くのよ) b)子音の促音化(とても→とっても)
→実際には女性に限られたものというわけではない。さらなる調査が必要。
男性に見られる、二重母音の縮約の典型
@/ai/→/eː/(痛い→いてぇ)A/ae/→/eː/(おまえ→おめえ)B/oi/→/eː/ (すごい→すげぇ)
2.2.2感嘆詞
男性:なあ、おい、ばかやろう、くそ
女性:あら、まあ、ちょっと
2.2.3代名詞
日本語の代名詞は本当に代名詞か?→No. 代名詞は一般的に、語彙というよりは統語上のもの。日本語はその定義には当てはまりにくい。
代名詞として見なすと決めることにして、ではそれはジェンダーを表すか?→Yes and No.
一人称
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背景 |
|
|
男性 |
わたくし 私 僕 俺 (自分) (わし) |
女性 |
わたくし 私 あたし (あたくし) (あたい) |
・ Ide(1979a),Shibatani(1990):「僕」は男のみ。フォーマル度は中。
・ Uchida(1997):男―女の会話では「おれ」を使う。「僕」も使われていると若い女性は認識している。「あたし」が「わたし」に取って代わっている。フォーマルな背景であっても。
・ Martin(1975):「わし」は田舎のおじいさん、力士、野球選手が使う。
・ Kanemaru(1997):男性の使用する「自分」は、階級を強調したいときに使われる(主に軍隊で)。女性の使用する「あたくし」はまれで、「あたい」は低い階級の人が使う。
・ Ide &Hori&Kawasaki(1986):与えられた背景のフォーマリティの評価は、背景によって代名詞の選択を導く男性と、そうでない女性では異なるものである。
二人称
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背景 |
|
|
男性 |
(あんた) てめえ 侮辱 |
女性 |
あなた あんた |
Ø 一人称も二人称も、中流階級の女性、夫、それぞれのスピーチを中心に集めたものである。ほかの地域や階級には用心すべき。
Ø Yamaguchi(1991):代名詞の検証。東海地方の方言には体系がない。
Ø Tajiri(1991):九州の方言を調べる。
2.2.4終助詞
McGolin(1999):男性→ぞ、ぜ、さ、な、よ / 女性→わ、(な)の
Reynolds(1985)
|
わ よ さ/ぜ ぞ なの な |
・女性は断定的でない形式を使用する。
男性によって使われる助詞 |
男性・女性に使われる助詞 |
女性によって使われる助詞 |
よな |
男性>女性 |
わね |
よなあ |
よ |
のよ |
ぜ |
かなあ |
かしら |
もんな |
もん |
なのね |
もんなあ |
男性=女性 |
わよ |
ぞ |
よね |
のよ |
なあ |
ね |
わ |
な |
さ |
なの |
さあ |
女性>男性 |
のね |
|
なの? |
もんね |
|
の |
の? |
|
よお |
|
・ 「わ」「の」:80%以上を女性が使用 / 「ぞ」「ぜ」「な」80%以上を男性が使用
・ 「さ」…高レベルでの断定:男女→変化し続けていることと関係がある。 ジェンダーによ
・ 「ね」:男女 る構造的パタ
・ 「ぜ」「ぞ」「な/なあ」「よな」「もんな」:あらっぽい効力…男 −ンはない。
・ 「わ」「わね」「わよ」:繊細な効力…女
・ 性別による文末助詞…伝統と結びついている。
・ Inoue(1994,96):地域と階級が先に結合。
・ Matsumoto(1996):男女の(言語の)形の区別は歴史的な深さから想定される。
女性語としてみなされる終助詞「てよだわ」は、明治時代くらいから女性語の道具となった。
・ Matsumoto(1996):「だよね」…以前は男性の終助詞だったが、今では男女両者が使用する。
これは、女性が典型的な姿からシフトした結果といえる。
2.2.5ゼロ規則
Shibatani(1990):「ゼロ規則」(=統語規則)提案。終助詞「よ」がつくと「だ」が落ちる(いやだよ→いやよ)は女性語のみの現象であるとした。
2.6敬語
女性の会話パターンが男性より「丁寧」だと言われる理由かもしれない。
「だ」 「です・ます」 |
|||
尊敬語 |
先生が |
お書きになる |
お書きになります |
先生が |
書かれる |
書かれます |
|
中立 |
友達が |
書く |
書きます |
謙譲語 |
わたくしが |
お書きする |
お書きします |
(先生のために) |
(お書きいたす) |
お書きいたします |
敬語に関して、構造的な男女の区別はなかった。しかし、これはジェンダーによる構造化に違いがあるという報告もある。
・ Ide& Hori&
(a)女性と男性では、動詞形態素の敬語の形について、それぞれ違う価値観を持っている。女性は体系的に、ある特定の形に関して、「丁寧でない」と感じる。男性は特に感じていない。
(b)男性も女性も特定の相手に対して「どう丁寧であるか」を考えているが、女性の方はより丁寧さが必要であると考えている。
(結論)男性と女性では敬語の使い方が違う。男性は階級や「内/外」に気をつけているが、女性は教養や女性らしさを意識して敬語を使っている。
・ 男性と女性では、ジェンダーに基づく丁寧さの違いは、実は社会的評価と一緒になって、意味の違いを体系的に作り出している。
命令と要求
男性:a) 起きろb) 書きたまえc) 動くなd) 起きるのだ e) 早く起きてくれ
女性:a) 起きてb) 起きてちょうだい
3.ケーススタディ
清水 一行「女重役」[1]の主人公、
以下例を示す。(I:市子、N:ナレーション)
(9)I) わあ。いてえ。 N) いちこは乱暴に声をあげた。
(10) I) これ以上心臓に悪いこと言わないでよ。たまらんよ、わしゃ。
N) 照れるでもない真顔でいちこは男のように言った。
(11) I) だってK病院は株の思惑で厚生省に締め上げられてアップアップしてるんじゃないか。
いまさら株主権の行使なんて悠長なこと言っていられないんだよね。
だからうちとトップも銀行からの話を突っぱねたんだと思うよ。
N)
いちこは男言葉と女言葉をごっちゃに、平山の口調を突き放すように言った。
(12) I) あるかないか、それを慎重に考えているんだからさ。
B−JAPANにD百貨店が協力しなければならない義務はないんだよね。そうでしょ。
N)
いちこは少しずつ、自をむき出しに、男言葉を交えてしゃべり始めた。
(13) I) 私だってわからないんだよ。
まだ社長に会えていないし、今日常務会が開かれるのはどうかも決まっていないんだ。
N) いちこは...乱暴な口調で言った。
しかし、常にこうというわけではない。夫、息子、親とは女性のように話す。
(14) I) あらそうなの。
すると、社長交代の含みまである合意ってわけね。
N)
...言葉遣いは控えめであった。
(15) I) いえ、お若かったです。
そのころ、御髪もまだ黒々としていました。
N)
お追従まがいないちこの言葉に、幸太郎は大げさに笑った。
(16) I) すべてご存知だったのかもしれません。
N)
いちこは控えめに言った。
4. The feminist debate
Tanaka(1995):1970-80年代の「新」フェミニストの動きを示している。それは、「性の自由」を目指して、女性差別を”hack through”するために意識を高めようとするものだった。
女性の変化は、女性語の規範を変えた。男性的なパターンを使ったり、中性的な言語使用をしたりするようになった。
政府やメディアは、女性だけに使われたよくない言葉を排除するようになった。(ブス、売れ残り、適齢期、オールドミス)
言語とは少しそれるが、今は夫婦別姓の議論がされている。(賛成派:結婚後もキャリアを続けられる / 反対派:家庭の崩壊を導く)
5.conclusion
日本語には、文法的にはジェンダーのカテゴリーはないが、社会的にはある。
女性語を構成する特徴の複合体としては、19世紀後半や20世紀になって定義されるようになった。
日本語には、同じ事を書いたりと話したりするのに、様々な言い方がある。
女性と男性の生き方がより柔軟で変化のある21世紀には、ジェンダーの言葉は「同じ事をいう代替法」の中心的な要素であり続けるかもしれない。
[1]デパート界の老舗第一屋百貨店の女性取締役第一号となった